View on GitHub

yukipedia

Private Wiki & Weblog

博士課程を振り返って

おことわり

ここにあることは全て個人の主観によるものであり,誰かのためではなくあくまでも自分のために書き記した日記のようなものである.

以下の内容は全て,博士後期課程を終えたときの私にとって,間違いなく本物の意見と感情である.

大事なこと

敬意・矜持・覚悟

「ありがとう」と「ごめんなさい」

人としての必須項目だと思っているが,博士課程で言えなくなる人を見かける. 歳を取ったり心に余裕がなくなったりするのが間接的な原因らしい. 気を付けなければならない.

メッセージ

とあるお世話になった先生からの激励.

そのうちTシャツにしたい.

進学

いつやめてもいい

博士号が取れなくても死なない. 就職もこだわらなければ何とかなる. 別に博士号を取ってもサバンナでは生きていけない.

そんな心持ちで進学したし,なんだかんだで焦ることもなく研究を楽しく続けられている.

研究とかアカデミアにしがみつく必要はないし,それを是とする人とは距離をおく.

目的意識

自分の価値観をしっかりと確立し,博士課程に何を求めるのか(研究を得意になりたい?知識を深めたい?技術を身に着けたい?)を明らかにする.

迷いが生じたときも,目的を思い出せば正しい道が見つかる.

SNSのネガキャン

主にNature, Science, Cellという三大論文誌を信仰している分野から,頻繁にアカデミアの暗黒面が聞こえてくる.

そんなものは本当にどうでも良いので,指導教員(の候補)としっかり向き合うことに集中する.

D進煽り

所属していたサークルでは「D進を煽っていいのはD進した者かD進する覚悟のある者だけ」という言葉があった. 本当にその通りだと思う.

安全地帯から不安定な進路を煽る人間とは付き合わない方が良い.

楽しくやる

楽しくやるのが一番伸びる.

楽しくやっている人と仲良くするともっと楽しくなる.

博士課程を楽しくやっている姿を見せると,博士課程の後輩が増える.

楽しそうな姿を見せるのも分野振興であるのだと思う.

楽はしない

楽しいが苦しいに変わるギリギリ手前くらいの負荷でやれるのが個人的にはベスト.

尋常じゃない負荷を楽しくやれる人や,苦しい状態で頑張り続けて化けていく人もいるが,必ずしも張り合う必要はない. 頑張りすぎて研究を嫌いになっては元も子もない.

定電圧を印可したモータは,出力が最大になる負荷が一意に存在する. 健康状態といった変動するパラメータを参照しつつ,その日の最高出力点を見極めていこう. もちろん締切前などでは,定格外運転をする必要も出てくることに注意.

お金

自由の値段

「就職した場合に得られた収入」から「博士課程で得られた収入」を引いた金額を,「自由の値段」と呼んでいる.

博士課程の魅力の一つは,自由,すなわち,研究に関する裁量を得られる点である. 自らの好奇心に忠実に仕事ができるのは,営利を目的とする企業では決して容易ではない.

しかしその一方で,日本でのほとんどの博士課程学生は,お金や時間の使い方に関するほとんど全ての責任を,自分自身で背負うことになる. 自由の値段とは,この人生にかかる裁量と責任のトレードオフを定量化するものであると考えている.

自由の値段を付けるのは,他の誰でもない自分だ.

「今の学生は好きなことをしていても,支援制度を使えば毎年200万円ももらえるのだから幸せだ.だから進学するべきだ」と言う教員がいた. でも軽率にこのようなことを言う人は,何かあったときに責任を取ってくれないだろう.

自分の価値観を大切に.同調圧力に負けずに.

節約ではなく稼ぐためにリソースを割く

そもそも,博士課程において集中したいのは研究であって,家計のやりくりではない. それにも関わらず,現状の国内の制度のほとんどは,たかだか年240万円の給与しか提供してくれない. この地価高・物価高の中でこの金額は,正直舐められているのだと思う.

前述のように,私は自由をいくばくかの値段で買っているわけであるが,本来その値段を決めるのはあくまでも私自身であり,国でも大学でも指導教員でもない. なので家計簿をつけ節約の方法を考える時間を消し飛ばし,奨励金の応募や学外での労働のための時間に割いた. それなりの気力と体力が求められたことは否定しない.

そのお陰で夏は登山に,冬はスキーに,経済的な悩みを持つことなくバンバン行けた. 研究の気分転換になるのみならず,いくつかの研究のアイデアは山頂やリフトの上で生まれている. 体力維持のモチベーションにもなり,心身の健康にもつながったと思う.

飲み会もお茶会も気軽に行け,それをきっかけに研究周りでもプライベートでも新たな繋がりを開拓できた. もちろん,大学に残らなかった大多数の友人との交流も維持できた.

そして何より,怪我や病気のとき,気軽に,躊躇わずに,病院に行けた.

マイクロ・ロビー活動

博士課程の経済状況に関するアンケートが来たら絶対答える. いくらほしいか聞かれたら,内訳含めて具体的に,生々しく書く. 自由記述欄もしっかり埋める.

そのような質問が来るということは,それを憂いている人が,どこかに存在するということだ. アンケートの回答は,その人を味方にし,世界を変えるための正攻法である.

実際,学振の月20万円の壁はようやく崩された. JSTは多くの支援策や,重複受給を実現している. 細かな部分では,毎年待遇が改善されている.

Twitterで愚痴を書いたところで,給料が上がることはない. その時間を少しでも,味方となってくれる/くれそうな人々へのお手伝いに割いてみてはいかがだろうか.

ふるさと納税

自分へのご褒美.

制度としての正しさの話は,心とお金に余裕があるときに考えればよい.

青色申告

やる価値はあった.

20時

スーパーの割引率が上がる素敵な時間. 日・月・水が狙い目.

健康

健康診断

毎年受けよう.

傷病

悪くなったら病院へ行く. 当たり前のことを当たり前にやる.

食事

三食取る.できていない日は綻びが出た.

ちゃんと緑黄色野菜を食べる.野菜ジュースでもいいから.

睡眠

毎日6時間以上.

徹夜はしない方がいいが,全くしないと,いざというときにできなくなる. 難しい.

お風呂

毎晩入る. 入れなくなったら危険信号.

出張のとき,用務先から少し離れたとしても,大浴場がある宿に泊まると幸せになれる.

こころ

二回ほど壊した. 後悔がないわけではないが,恥ずかしいこととは思っていない.

曰く,「心を壊して戻ってこれたとき,他者に優しくなれる」らしい. そういうことにしておこう.

一回目はD1の終わり,二回目は博論の書き始めの頃

一回目は酷くて,突然発症し,摂食障害を伴い,一週間固形物が食べられなくなった. ウイダーを備蓄しておいて何とかなった. 布団からほとんど出られず,スマホばかりいじる一週間で,今思えば人格も変わっていたのだと思う.

それを見て上で,回復中や回復直後にお出かけやご飯に誘ってくれた人たちとは,今でも親密な交流が続いている. その後,何度か逆の立場になることもあった. 一時的に距離を取ったのち,手を差し伸べられて元通りの関係になれた. 本当に良かった.

二回目は,よくあるものなのだそうだ. 一回心を壊していたおかげで,早急に検知でき,速やかに休みを取って友達と温泉旅館で二泊くらい過ごした.

ちなみに安定した職と安定した収入が特効薬になる.

感受性

知識や経験が増えるほど下がる.

新しく触れた事象を,既存の何かと結びつけ,感動を減らしてしまうのだ.

新しいものを恐れず,素晴らしいものに「素晴らしい」と言う. ただそれだけのことを続けていこう.

博士課程症候群

鬱とは別に,私が自己管理のために定義した. 以下の複数に当てはまったら注意だぞ☆

エナドリ

博士課程の間,エナドリの類に一切頼らなかったことを誇りに思う.

飲んだのも一度きりだった. イギリスでスイカ味のレッドブルを見つけたときに,興味を抑えきれなかった.

なお旅行で岐阜・恵那に行ったときの地鶏「恵那鶏」をカウントすると二度になる.

コーヒーは一日二杯まで. ブーストする日はオロナミンCかキレートレモン1本を追加する.

おさけ

好き.大好き.でも頼るべきではない.

博論執筆の最後1か月は禁酒した. 禁酒の反動かストレスの影響か,このあと酒にとても弱くなり,酒豪に戻るまでにリハビリ3か月を要した. 忘年会シーズンに間に合って良かった.

タバコ

何度か誘惑があったが踏み留まった. 綺麗な肺のまま,スポーツを続けられている.

研究

指導教員

師であり同僚.やや強い言葉を使うと「選べる親」. 一人暮らしの場合,博士課程の間,最も多くの時間を過ごす相手になるかもしれない.

結果として,テーマ,性格共に,抜群に相性が良かったと思う. B3の研究室配属のときに,最後絞ったいくつかの候補の先生方と,一対一で30分ほど面談を組んでもらったのが功を奏した.

一緒に仕事ができて楽しかったし,これからも一緒に仕事をしたい.

研究室

モチベーションは伝播し循環する.

モチベーションの高い人が多く集まるとモチベーションが上がり,新たにモチベーションの高い人を呼び寄せる.

コミュニティ

教員が一人で運営するような小規模研究室には,間違いなくリソース由来の限界が存在する.

教員が何人もいて学生も何十人といるような大研究室と比べれば,得られる情報,技術資産,プロジェクトの規模,どれを取っても足りない.

多く見てきた天才格みたいに,一人で孤軍奮闘できるほどの能力があるわけでもない.

そこで集合知パワーである. 学会をうまく活用し,いろいろな研究室にお邪魔し,足りないなりにカバーできるところは全部カバーしたつもりである. もちろん情報を与えるだけ/もらうだけにならないようにして,お互いハッピーになろう. 育ててくれたコミュニティにこれから恩返しをしていく.

飲み会

結局研究も人のなすこと. 学術研究の価値の半分は人的交流から生まれると言ってもいい.

先約がある場合と敵対的な相手がいる場合を除き,誘いを断ったことはほぼ全くない.

ネタがまだ決まってないのに,近い内に共同研究しようと言って毎年一緒に飲みに行っている知り合いが何人もいる.

そんな感じでこれからもやっていく.

勉強会

友人と勉強会コミュニティを一つ作れた. 受け身で情報を得られる機会を,能動的に生み出せた.

コミュニティはマルチエージェントシステムであり,皆がいい感じに動く必要がある. コミュニティに入ってきて,コミュニティを育ててくれた/くれている人々に感謝.

英語

コツコツと頑張る.

会話に関しては,英語力とは「正しいかよくわからない英語であっても,外国人相手に堂々と話す度胸」だと思う.

論文

読みまくって書きまくるしかない.

Acceptの数だけ評価される. Rejectの数だけ強くなる.

深層学習

AIに研究テーマを奪われた,そんな気分になることが増えた.

絶望して,気を取り直して,を繰り返すと,新しく見えてくるものがある.

ただ,引き際を見誤らないようには,したい思う.

申請書

型の中で個性を出す.

ここでいう型とは,応募書類として提供される様式のことであって,決して攻略本に書かれた謎ルールや謎マナーではない. 型の中で,自我のこもった一工夫を積み重ねていくと,なんとなく目立つものが完成する. これで,他の申請者が攻略本通りに書くほど,私の勝率が上がる仕組みの完成だ.

絶対に負けたくない予算公募は,半年前からネタをぼんやり考えるようにしている. 当然ながら,アイデアというものは一朝一夕で思いつくものではない. 良いアイデアが生まれるには長い時間と多くのインプット,そして何より思考のゆとりが必要である. 締切が見えてくるような時期になってから考え始めても,心の余裕なくしては,出るものも出ない. コトコトと思考を煮詰め,ひらめきと忘却という味付けを繰り返して,あとは寝て見直して言葉を熟成させる. あわよくば国内会議の予稿などに向けて研究計画の味見をする.

そして最後は結局人. 分野の違う友達や先生に見てもらったり,添削し合ったりしたのも良かったと思う. 一般的に申請者とは,論文ほど専門性や精密性が高い必要はなく,むしろ誰が見てもなんとなく内容がわかる方が良い.

添削いただいた各位におかれては,その節は本当にありがとうございました.

国内留学

共同研究者の研究室に一月ほど居候させていただいた.

大変良かったのでオススメしたい.

国外留学

4か月ほど在外研究をした.

食事の質と,湯舟がないことに不満があったこと以外は,素敵な日々だった. オススメできる.

TA

全て断った.

もちろん断る正当な理由もあったが,最低賃金でやらせるなよ.受けるなよ. 大学が博士課程学生の価値を評価しなくてどうするの?

あとで他の専攻では倍の時給と聞いて大変落胆したものだ.

人を大切にしない組織はいずれ潰えると相場が決まっている.

いろいろ

アルバイト・インターン

研究者は間違いなく研究のプロであるが,技術のプロとは限らない. 餅は餅屋.技術はエンジニアに教わるのがいい.

情報系は幸いにも教わりながらお金がもらえる.

もちろん他にも,いろいろな価値と出会いがあった. 楽しかったし面白かった. 研究の気分転換にもなった.

大学がなくなる

学位記に入学した大学の名前が入らないなんて馬鹿げた話が出たときは呆然とした.

なんとか直前に脱出できた.

サークル

所属していたサークルは博士課程まで在籍可能だったので,博士修了まで居させていただいた. 追い出し会が年度末に控えており,感極まるばかりだ.

9年間,とても楽しい日々だった. D3ではほぼ幽霊みたいなものだったが,年2回の合宿は参加して後輩に研究の楽しさと大変さの両方を可能な限り伝えたつもりだし,新入生への技術的な教育もD2まではなるべく手伝ったつもり.

サークルで大学を選んだ身としては,冥利に尽きる.

就活

時間がもったいないのでしていない.

学会関連の飲み会などで,就職先が決まっていないことと,やりたいことを好き勝手に語っていたら,バタフライエフェクトが起こり就職先が見つかった.

参考にはしない方がいいが,「種まきは重要」とだけ記しておく.

面白話

参考文献

この怪文書の執筆はkei18氏の博士課程あることないことに動機づけられたものです.